機動戦士ガンダムAGE 第7話「進化するガンダム

前回、人物描写なんてできっこないのだから、そこにたいするツッコミはやらないと決めていたのに、なんかそういう方向の愚痴ばかりになってしまった。なので今回はそこには触れない。
とりあえず、ファーデーンはガンダムファイトを始めたらいいと思う。
以下ネタバレ
わざとそういう描き方をしているのか、単にスタッフに実力がないだけなのか判断しにくいのが困った所で、逆に言えばそうやって翻弄されながら見るのが一番楽しいのかもしれない。前回のやぼったいMS同士の銃撃戦からかわって、今度はコントみたいなマヌケな格闘戦。マフィアのボスと自称騎士が「強力なMS」らしきもので決闘するが、やってることは小学生のケンカ……どころか、お笑い系プロレスとそうかわらないという、ひたすらにシュールな空間が展開された。前回に引き続き、「いくら何でもそれは……」とは思ったものの、しかし、間のとり方やカットの挿入のしかたが笑わせに来ている時のそれであったので、おそらくこれは意図的なものなのだろうと思い直した。つまり、あいつら大まじめにああ言うバカをやっているのだ。要は、戦い方を知らんのだ。
ここからわかることがひとつ。銀の杯条約以降、「モビルスーツ」という兵器そのものが残された場所であっても、その「運用技術」まで残されることはなかった、ということだ。戦後まもなくは戦争世代による技術継承もあったのだろうし、ウルフさんみたいな人が出入りしていることもあってMS鍛冶もいたのだろうけど、そのMSを扱える人間が、既にファーデーンにはいなかったわけである。なんてこったい。
とはいえ、そんな馬鹿な話があるのか? と思いつつ、過去のガンダムシリーズに似たような人物がいないかどうか記憶をたどってみた。すると……いた。
ガンダムΖΖに登場した、デザート・ロンメル中佐。ΖΖ中盤の、ギャグ路線からシリアス路線へと移っていく「砂漠編」の登場人物だ(ちなみに俺はこの砂漠編の大ファンである)。

ジオン公国軍残党・ロンメル部隊の隊長でエースパイロット。階級は中佐。「砂漠のロンメル」という異名を持つ。フルネームにある「デザート」とは英語で砂漠を意味するため、この名前が本名か異名どちらを指すのかは不明である。

機動戦士ガンダムΖΖ』や『ΖΖ-MSV』における設定によれば、一年戦争時は砂漠戦のエキスパートとして地球連邦軍に怖れられた。ディザート・ザク(ロンメルカスタム)で高い戦果を挙げ、後にドワッジ改を受領した後もさらに活躍をしている。またロンメルはザビ家の熱狂的な信奉者としても知られ、一年戦争終結後も徹底抗戦を主張し、アフリカ大陸でゲリラ活動を行っていた。その後、砂漠の小さい町に潜んで、兵の訓練や連邦軍の基地から兵器や資材を奪って自軍を強化しながらジオン再興を夢みていた。なお、この時期を描いた作品として、ディザート・ザク(ロンメルカスタム)を駆って、囮部隊を用いて連邦軍基地を襲撃する小説『モビルスーツコレクション・ノベルズAct.4「砂漠の狐」』や、闇夜のフェンリル隊が、ロンメル隊の撤退を完了するまで地球連邦軍ジオン残党狩り部隊の攻撃を防ぐ漫画『GUNDAM LEGACY』がある。

『ΖΖ』ではネオ・ジオン軍が地球降下した際、ロンメルは自らの部隊(ロンメル隊)を率いてガンダム・チームと交戦。ロンメル隊のモビルスーツ一年戦争で使われていた旧式機であり、8年間改良しながら使用していたものの、やはり性能の差は歴然としていた。ガンダム・チームはロンメル隊に苦戦を強いられたが、最終的には勝利した。最後に残ったロンメルジュドーに特攻をかけるも、考えの古さや頑迷さを批判されながらΖガンダムビームサーベルによって撃墜された。

主な搭乗機は、MS-06DRC ディザート・ザク(ロンメルカスタム)、MS-09H ドワッジ改。
Wikipediaより)

華々しい戦績だ。まさにジオニストの鑑のような男である。ただひとつの欠点をのぞいて。
このロンメル中佐、砂漠編の敵の中では悲しいくらい弱いのである。Wikipediaでは「ガンダム・チームを苦戦させた」と記述されているが、実際はろくに攻撃を当てられていないばかりか、ワンパターンな作戦をあっさり見破られて手痛い反撃まで受けている。ロンメル隊がどのくらい弱いかについてはこちらのサイトで詳しく考察されているので参照してほしい。弱い。弱すぎる。ジュドーも泣くほどの弱さである。これでは、Wikipediaにあるとおり「MSの性能の差」が敗因に直結したとも考えづらい。というのも、このあとの話では、ゲルググ1機でガンダム・チームを追い詰めた女ゲリラ「マサイ・ンガバ」や、ジュドーとプルの操るΖガンダムをも圧倒した「青の部隊」といった強敵たちが次々と襲いかかるからだ。彼らは正規の軍人ではなく、使用しているMSも一年戦争機体のレプリカをかき集めただけのシロモノにすぎない。当時のものに比べれば多少のチューンナップは施されているだろうが、それでも中身は普通の量産型MSとあまり大きな差はないだろう。にもかかわらず、彼らはジュドーたちガンダム・チームを苦しめた。マサイは恋人を亡くした執念からニュータイプ能力のようなものを身につけたともとれるし、青の部隊は、友軍に見捨てられたグレミーをしばらく養っていたから、それほど金には困ってなさそうではある。だが、それでもロンメルよりは確実に強い。
一年戦争時は強かったにせよ、なぜロンメル隊はあんなに弱くなってしまったのか?
現地でつくった妻子との別れを惜しむ兵士を、ロンメル中佐が叱責するシーンがあった。それに、彼らの弱さからいっても、部下たちに実戦経験があったのかどうかもあやしい。推測だが、ロンメルの部下の多くは、カプールの少年のように金で雇われただけの烏合の衆ではなかろうか? 加えて、ロンメル中佐は現場ではひたすら精神論を唱え、いざ戦いが始まればワンパターンな戦法に固執し、時代の変化に対応できず、相手にたしなめられれば逆上するような人物だった。およそ、人望のある男とは考えにくい。「ギレンの野望」では高めの能力値に設定されているし、一年戦争時は優秀な軍人だったのかもしれないが、おそらくそれは彼をうまく扱える人物がより上にいたためだろう。戦争の終結により、彼の上に立つ指導者がいなくなったことで、彼の頑迷さが露見してしまったのだ。それまでは仕事ができたのに、課長が異動したとたんに横暴になった係長や、野球部の三年生が引退した瞬間に威張りだした二年生のようなものである。このような状況下で、いくらジオンの独立という大義名分を抱えていても、8年も彼の下で抵抗活動を続けようとする人間が、どれほどいただろうか? スペースノイド自治権獲得という名分なら、エゥーゴやカラバだって似たようなものだ。エゥーゴにはジオン出身者も多い。おそらく、元から彼の下にいた兵士たちの多くは、アナハイムのような民間企業や、カラバのような他の組織へと移っていったのだろう。なにより、地球上で堂々とジオンを名乗って、ティターンズに目を付けられたらたまったものではない。そして、残されたロンメルと一握りの「理想はあるが能力は足りない」部下は、人手不足を補うために、現地の若者を金で雇わざるを得なくなり、かといってロンメルに新兵を鍛えられるほどの能力はなく、徐々に部隊の練度は低下し、それがますます人材の流出を招き……ジュドーが来た頃には、民間ゲリラにも劣るほどの弱小部隊になり果てていた、というわけだ。
話がだいぶそれてきたが、これと同じ現象がファーデーンにも起きた、とは考えられないだろうか? つまり、実際に戦火をくぐり抜けてきたプロの軍人たちは時代が下るに連れて減っていき、残ったのはドン・ボヤージュのようなマフィアくずれや、自称騎士くんのような夢想家たちばかり。彼らに戦い方を伝授するものもなく、傍から見れば子供のケンカのようなマヌケきわまる争いを何年も続けてきた……。グルーデックにしてみれば、こんな奴らにMSや艦船を持たせて遊ばせておくよりも、自分たちで使いこなしてみせたほうがナンボかマシだと思ったに違いない。あまり本編では語られることのなかった「ファーデーンの光」だが、それはもしかしたら、彼らのマヌケながらも一途なところなのかもしれない(イエス! ボスのいうとおり!)。
 子供が怒鳴りこんできた時や、UEが攻めてきた時の対応を見るに、彼らにとってもかつての軍が掲げていた「理想」や「大義」とかはとっくの昔に形骸化していて、ただダラダラとケンカを続けていただけに見える。おそらく、彼らがなんで戦っているのか、彼ら自身にもよくわかっていないのだろう。ゲーム感覚でぶつかり合っているだけなのだ。ゲーム感覚だから、本気で銃弾を避けようとはしないし、川にあっさりと足を取られたりする。ゲーム感覚だから、UEとガンダムという異物がやってきただけであっさりと呉越同舟をやる。ゲーム感覚だから、ドンの脇にいる真野さんの部下みたいなバカが側近をやっている(これは関係ないか)。
こうなったらいっその事、両陣営でスポーツでもはじめて、それで決着をつけてしまえばいいのではないか? 勝ったほうが次の対決までの一定期間、ファーデーンの実質的な支配権を獲得するのだ。おお、ガンダムファイトと同じではないか。経済効果も期待できるぞ。
これが現実世界の内戦だったら、それで簡単に問題が解決するような話ではないのは百も承知だ。しかし、不幸中の幸いか、両陣営のトップはどちらもバカであることがはっきりした以上、グルーデックあたりがうまく言いくるめれば、話に乗ってくれる可能性はある。
さすがに「コロニーがリングだ!」だと周辺住民が困るから、専用のスタジアムでも用意してやればいい。おあつらえ向きに、ウルフさんが出入りしていたMS鍛冶のハンガーもあるから、メンテナンスはそちらに任せればいい。イワークさんのようなデスペラード乗りがいれば、スタジアム建設も不可能ではないし、コロニー内にはなぜか砂漠地帯もある。土地には困らないし、公共事業としても申し分ない。これまでのイワークさんはおそらく、抗争で破壊された道路やビル防護シールドなどを修理することで生計を立てており、ある意味でマフィアに依存した生活を送っていたと思われる。両陣営に恨みを抱きつつも、そういう後ろ暗いところがあったからこそ、上層には住めずに、スラムで息を潜めて暮らしていたのだろう。これからはスタジアム管理スタッフとして堂々と食っていけるぞ。やったねメイちゃん!
ただ、これをやる上でひとつ大きな障害がある。地球連邦軍の存在だ。
ファーデーンに駐屯しているはずの連邦軍が、両陣営の抗争に介入してこないのも、ほっといても大して害はないと踏んだのだろう。実際はスラム住民のように実害は出てはいるのだが、なにしろ連邦の担当官がアレである。スラム住民を助けた所で袖の下はもらえないだろうし、逆に言えば両軍の戦力バランスを均衡化させておいて、さらに抗争で適度にものを壊してくれたほうが、商売相手としてはなにかとやりやすいだろうし……。治安の悪い国の警察のようなもんだ。ワイロをもらってオメコボシをしているのだろう。こいつをなんとかしない限り、ファーデーンに(お馬鹿だけど)明るい未来はやってこない。
UEの本拠地の場所さえわかっているのに、いっこうに行動を起こさない連邦軍。やっぱりこいつら、裏でつながってるんじゃねえの? だいいち、場所がわかっているなら戦力を送り込むまでもなく、核ミサイルの一発でも撃ちこめば事は済む。なにしろ、ザフトと違ってUEには地球の条約は適用されないのだ。「試したけどダメでした」という条件でもない限り、そういう手段を連邦が試さない道理はないだろう。もちろん、核のような大量破壊兵器も銀の杯条約によってまとめて封印されました、という可能性もないわけではないのだが。
やっぱり連邦が一番のガンなんじゃね? と言うところで今回のネタ考察でした。
 
以下は個別の感想。
うぉ、タイタスって頭と胴体以外全部とっかえるのかい。その発想はなかったわ。まるで鋼鉄ジーグのようだ。しかしこんなでかいパーツをAGEシステムは生産したのか……。空恐ろしいなぁ。予告で出ていたハンマーナックルもよし。
そして登場、シャングリラチルドレン。スラム育ちとはいっても、ジュドーやビーチャほど悪知恵は働かないのがレベルファイブの子供たちなのだろうか。そんな「善良なる」子供にあっさりと押し切られるバルガス爺さん。「悪人」では無いんだろうけど、子供の教育はできなさそうだなぁ。そういえば、ΖΖの初期のエピソードに、アクシズに取り入って私腹を肥やす金持ちを、家を地すべりさせて倒壊させ懲らしめる話があった。コロニーで地すべりというのも妙な話だが、単にメガホン持ってどなるぐらいなら、いっそそのぐらいやってもよかったんじゃないか。どうせならとことんバカを貫いてほしい。
そしてノーラの民間施設にはいっさい興味を示さなかったのに、子供の乗ったトラックはノリノリで襲い掛かるUE。ユリンの件といい、やはりこいつら、ロリコン……もとい、意図的にガンダムを戦闘に導こうとしているようだ。やっぱりヤラセなのかね、この戦いは。

今週のウルフさん:ウルフさんのウの字も出てこない。「00」ではエピソードの主題になんら絡まないキャラクターもむりやり登場させて肝心な尺を圧迫していたが、逆に出番のないキャラクターを陰も形もなくしてしまうのも問題だ。せめてラーガンあたりが「こんな時にウルフさんはどこで油を売ってるんだ!」とひとことぼやいてでもいてくれれば、少しはマシではある。そのラーガンにしたって、1ヶ月以上出番なしのまま急に引っ張り出されてこられても、覚えてられない。1話でガフランにやられて死んだのだとばかり思っていたよ。
うーん、どうもAGEの問題点って、脚本と言うよりコンテの問題というような気がしてきた。*1

監督が作画出身の人(ガンダムでは珍しいタイプの監督さんである)だからか、画で見せようとするやり方にこだわっているのは見える。ドンと騎士くんの泥仕合は正直笑えたし、ガンダムダッシュエヴァと言うよりエクストリームバーサスっぽくてこれもよかった。ただ、こういう演出のしかたは、レベルファイブのアイデア一発勝負な脚本とはどうにも相性が悪い気がする。いいところを伸ばしてはいるが、同時に欠点も拡張されてしまっているから、視聴者には悪い部分だけが印象に残ってしまう。それに、スタッフの頭の中だけで世界が完結してしまっていて、それが視聴者に伝わってこないという歯がゆさを感じずにはいられない。せめて、もう少し話のつながりを見せられるコンテを切れれば、もう少し説得力が出てくるんじゃないかなぁ……。また愚痴っぽくなっちゃったので、このへんで。

*1:いや、違うな。キャラクターが放送回によって陰も形もなくなったり、性格が全く違うものになっていたり、エピソードの切り貼りに終始して全体像が見えないのは、脚本スタッフ同士で意見のすり合わせができていないからではないか、という指摘が某所であった。そういう仕事はシリーズ構成の役割だろう。……そういえば、この番組のシリーズ構成って……。なんてこったい。なんでも日野のせいにするのはよくない、と言っておきながら、どうも日野が色々足を引っ張ってるという結論が出てしまいそうだ。困ったな。