【ネット番記者】ありがちな詞が「あり過ぎ」な歌
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/entertainers/100722/tnr1007220744002-n1.htm
昔なんかの本*1で読んだのだが、「翔べ! ガンダム」は当時のアニソンにありがちなフォーマットをなぞっているようにみえて実はけっこう異質な曲なんだそうだ。なんでも、当時のロボットアニメソングは「それがどういうアニメなのか」を紹介する役割を担っていたので、主要な必殺技やキャラクター、倒すべき敵、主人公の特徴などをいかにして歌の中に盛り込むかに重点を置かれていたそうなのだ。だが、この「翔べ! ガンダム」にはそれらの必要とされる要素がすっぽり抜け落ちているんだそうな。
読んだのが何年も前なのであまり憶えていないのだが、いわく

  1. 固有名詞が「ガンダム」しかない
  2. 敵は「巨大」という以外よくわからない
  3. 歌われている主人公の勇敢さ、強さをアピールせず、叱咤激励するだけ
  4. 「戦いの恐怖」をこれでもかと強調している

他にもなんかあった気がするけど、覚えているのはこのぐらい。で、うろ覚えの記事と俺の独自解釈を混ぜつつ各項について考えてみると、
1.については普通のアニソンなら必殺技とかキャラ名とかを連呼するのが慣例なのだがご存知の通りガンダムに必殺技なんて存在しないし*2アムロの名前はED曲に回されている。ビームライフルとかルナチタニウム合金とかそういう用語もいっさい登場しない。
2.の「巨大な敵」というのはもちろんジオン公国のことで、映像でもここでザクの大群が映ることからもわかるのだが、そのジオンがどういう敵なのか、なぜ倒さなければならないのかがはっきり伝えられていない。視聴者はこれまでのアニメを見た経験から「おおかた世界征服だろう*3」というふうに受け取って違和感なく受け入れてしまうので、本編の「国家間戦争」というテーマは巧妙に隠される形になる。
3.については本編のアムロを見れば勇敢どころの話ではないのが一目瞭然。さらに言えばガンダムがどう強いかもいっさい書かれていない。燃え上がったり蘇ったりしているだけである。
そしてこれらを総合すると4.の「戦いの恐怖」ということになる。たとえば、「まだ怒りに燃える闘志があるなら」ということは、この歌が歌われる時点でアムロは闘志を失いかけているのである。ほかにも二番、三番と見ていくとアムロが実はくじけそうになっている事がわかる。ではアムロは何に恐怖しているのか? 先述した「巨大な敵」だろうということは想像がつくが、その敵の何が恐ろしいのかははぐらかされてしまっている。ではそれはいったいなんなのか? ここまでを総合していくと、「巨大な敵」の正体とは実はジオン軍それ自体ではなく、「戦うこと」そのものであることがわかってくる。これこそが「翔べ! ガンダム」のテーマだったのだ。つまり戦争という極限状態の中で恐怖と絶望に震えるアムロと、それでもその恐怖に打ち勝つために今一度立ち上がれと励ますメッセージだったのである。
もしここでガンダムの特徴や、あるいはジオンの強大さなどスポンサーから要求される語句を具体的に記してしまったら、これらのメッセージが掻き消えてしまう。だからといって、この歌が伝えたい本当のテーマである戦いの恐怖を直接的に描写してはスポンサーからストップがかかってしまうだろう。だからこそ、この歌は具体的な描写を極力避け、ガンダムを鼓舞するワードを過剰に注ぎ込んだのである。そこに「まだ」という単語を巧みに潜ませながら。まさに御大の巧妙なテクニックがなせる技と言えよう。
いかがだろうか。こう考えると、「時代に迎合したありがちなアニソン」というこの歌の評価は多少は代わりはしないだろうか。ファーストガンダムの主題歌の中ではいまいち評価のかんばしくない「翔べ! ガンダム」だが、この曲だってほかのガンダムソングと何ら劣ることのない名曲なのだということをご認識いただければ幸いである。
 
んーでもやっぱイントロのシンセタム(歌いだし直前に鳴るぽぽんぽ〜んって音)はちょっと吹くなあ。
 



追記
ガンダム」にかかっている動詞をみると三番の「よみがえる」以外すべて命令形である。アニソンで命令形は珍しくもないのだが、なぜ「よみがえる」だけ終止形(正確には連体形か)なのか。しかもよみがえる、ということはすでに一度やられているという意味である。情けないな、ガンダム! おそらくはここでもアムロが挫折しかけていることを意味しているのだろう。
結局は鬱病の人を励ますような内容になってるけどそれは励ますだけ励ましてあとは知らんぷりなスポンサーに対する皮肉も入っているかもしれない。御大のことだから。

*1:ガンダム20周年記念かなんかで出された本だったと記憶している。残念ながらこの歌のレビュー以外はあまり大した内容はのっておらず、とくにガンダムWを単なる腐女子アニメと切り捨てていた(時代性を考えれば仕方ないのかもしれないが。だってあのあと本当に女性ファンを狙いに行くガンダムが放送されるなんて思わないもんなぁ)。本稿はそういう記事の100%受け売りであることをここでお断りしておく。

*2:空中殺法とか振り向き撃ちとかはあるけどあれは演出であって技ではない。

*3:ギレンの言動見てると結局はそれじゃんと思わなくもないが。