砕かれた霹靂

 サンダーフォース
 セガ史に燦然と輝く名作シューティングゲームである。
 セガハードでの発売は2作目からとなるが、セガとは全く縁の無いゲームライフを送っていたオレにとってセガのシューティングといえば個人的にはコレかレイディアントシルバーガンのどちらか、である。ちなみにオレが持ってたのは4作目。
 メガドライブのクセの強い描画能力を最大限に生かしたグラフィック。
 FM音源の特徴をつかみ、プレイヤーをグイグイとゲームの世界に引き込んだサウンド
 そして何より、どのステージもプレイヤーの予想を上回る展開でワクワク感を増大させた演出の数々は、間違いなくシューティングゲームの歴史に残る素晴らしいものであった。

 このシリーズがいかに当時のセガファンに愛されていたか、セガの歴史を余すところ無く詰め込んだ究極セガマニアゲー「セガガガ」の、最終ステージのメインに抜擢されたことからも伺えるだろう。
 しかし、セガサターンで発売された5作目を最後に、開発元のテクノソフトは倒産。

 ドリームキャストでの発売が予定されていた6作目は幻となり、セガガガの最終ステージのネタとして使われたのを最後にファンの前から姿を消すこととなったのである。
 それから10年。
 「もう出まいと思われていた続編が、形を変えて復活する」そんな情報が、なんと同人ソフト業界から立ち上がってきた。開発コストの低い同人ソフトという形で、正式な続編ではないまでも、サンダーフォースの血筋を受け継いだ新しいゲームが登場するというのだ。
 その名は「ブロークンサンダー」。作曲は、あのTF5を手がけた九十九百太郎氏。発売元は有限会社ファクトリーノイズ&AG。同人ソフトでありながら会社からの発売ということで、将来は商業作品化、家庭用ゲーム機への移植なども視野に入れた壮大なプロジェクトであった。
 それから何本かのサウンドトラックの発売を経て、ついにゲーム本編の発売が決定した。
 スタッフには熱烈なTFファンであり、「セガガガ」最終ステージの自機のモデリングも担当したGarow氏、「とびつきひめ」などのヒット作を制作し、同人ソフト業界では名の知られた01stepの(む)氏など、そうそうたる顔ぶれが集まっていた。原作となるサンダーフォースのスタッフはすでに散り散りになってしまい、作曲の九十九氏や山西氏を除いてはほとんどが元スタッフとは別人ながらも、サンダーフォースを深く愛する熱意あるメンバーが集結していたのである。
 そして2007年5月3日、ついにゲーム本編が発売――価格は通常版2,940円、サウンドトラックつきの限定版が5,250円。同人ゲームとしてはかなり強気の価格設定に、ファンの期待は高まっていく。
 しかしその一方で、一抹の不安を覚えるファンもいた。サントラはこれまでにも何本も出ているが、肝心のゲーム自体のスクリーンショット(画面写真)が一枚も公開されていないのである。加えてプロデューサーの自己破産発言など、これまでの数々の問題発言から買い控えを考える者もいた。
 果たして、ゲームは発売された。そして、ネット上のコミュニティは騒然となった。すなわち落胆と憤りの声で満たされたのである。

 単調なステージ構成は「グラディウスの空中戦がずっと続くようだ」と言われ、*1背景はほとんど変化がなく、ボスキャラクターにいたってはなんとアニメーションが一切設定されていなかったのである。直立不動の姿勢のまま上下動を繰り返すボスキャラは「コンボイの謎ファミコンクソゲー)」のようだとまで言われた。
 しかし、開発費の少ない同人ソフトのこと。ある程度のゲーム性が損なわれるのは仕方の無いことなのかもしれない。せめて「サンダーフォースらしさ」のかけらでも見せることの出来たなら……落胆するファンにとどめを刺してしまったのは、ディスク内のデータとして載っていた文章ファイルだった。「お手に取ってくださった方へ」というタイトルのそのファイルには、発売日までにゲームが完成しなかったことと、それに対する言い訳とも取れる文章が記されていた。当然このファイルはゲームのパッケージの中に格納されているため、購入するまではうかがい知ることは出来ない。
 「未完成品だとわかっていたら買わなかった!」ファンの怒りは頂点に達した。ショップやメーカーには返品を求める声が相次ぎ、消費者センターに相談に行く人も現れるほどの騒ぎとなった。
 メーカーは6月以降のアップデートによる対策を提示。また返品にも応じることとなる。アップデートに関する情報は公式サイトやプロデューサーのブログにて随時お知らせすると発表され、事態は沈静化の方向へ向かうかと思われた。
 しかし、それから一ヶ月を経ても、メーカー側からは全く何の音沙汰も無かった。
 不安を覚えるファンの前に、恐ろしい事実が次々と明らかになっていった。
 それは一連の騒ぎにショックを受けたGarow氏、(む)氏をはじめとする外注スタッフの証言だった。
 スタッフの証言に共通するポイント――それはプロデューサーの管理能力に関するものだった。プロデューサーはほとんど外注スタッフに対しての連絡を行わず、何をやっているのか全くわからない状態が何ヶ月も続いていたというのである。どこまで作業が進んでいるのか? 何をやればよいのか? 自分の仕事はどのくらい使われているのか? 何か修正すべき箇所はないのか? そうした重要な情報が一切伝わってこなかった。外注スタッフという立場上、クライアントからの連絡がなければ動こうにも動けない。(む)氏の証言によれば、実際にプログラムの制作に入れたのはわずか4ヶ月、実質的には2ヶ月ちょっとしかなかったというのである。こんな状況でまともなゲームが出来るはずもない。
ファンの怒りの矛先は徐々にプロデューサーへと向けられていった。
 そしてアップデートパッチの公開予定日である6月末になっても、何も動きの無いまま、6月30日――それは発表された。
 「アップデートパッチ配布中止」
 しかもその情報はメーカーではなく、販売を担当した同人ショップが告知したものだった。ショップは無条件で返品に応じるとしたものの、肝心のメーカー側からの説明は無く、ファンはすっかりあきれ返ってしまった。
 ショップの発表に遅れること二日、7月2日。メーカーは公式ブログにて、ブロークンサンダーの全権限を他社(どこなのかは不明)へ譲渡したと発表した。そしてプロデューサーは発表の中で「(制作は)実力有るクリエイターにより、急ピッチで進行中です」と発言。散々振り回された外注スタッフはこの発言に

「善意で参加した人たちもいるとしたら、その人の善意もすべて、『実力ないクリエイターだったから、こんなことになってしまいました』と言い切ったのか(Garow氏)」

「使い捨てられたって感じで悔しすぎるよ(六羽田氏)」

とプロデューサーへの怒りをあらわにした。

「問題は、誰もが不幸になったってこと(Garow氏)」

 ファンと同人ソフト業界、多くのスタッフたちを巻き込んだ10年越しの復活劇は、予想しうる最悪の形で幕を閉じることとなった。果たしてプロデューサーはいま、何を思うのか? ゲーム作りとは何なのだろうか?
 ハード競争華やかなりしゲーム業界の裏で起きたひとつの悲劇は、またゲーム業界に蔓延る病のひとつとして、ゲーマーの間で語り継がれていくのだろう。

参考URL
BROKEN THUNDER@wiki

*1:もちろんグラディウスの空中戦が単調ということではなく、本来ならステージ間のインターバルに設置されるべき「ちょっと休憩」的な展開が延々と続き、メリハリも何もあったもんじゃないということである。